ティール組織の実現に向けた成人発達理論の理解と人材開発
ティール組織への期待と現実の中で
久しぶりの皇居近く、東京メトロ半蔵門駅。
地下鉄の出口を出て徒歩2分のところに、かなり本格的なコワーキングスペース・共創コミュニティの「LIFULL」があります。
さすが皇居に近いからでしょうか。
エントランスには海外からの視察?なのか、観光なのかよく分かりませんが、外国の方が数名写真を撮っていました。
それを横目でみながら階段で2階へ。
受付を済ませると、開始時刻数分前にもかかわらず会場はすでにほぼ満席でした。
このイベントの注目度の高さがうかがえます。
先日3月1日は、申し込みのときから楽しみにしていた「組織開発(od)×成人発達理論講座 開講記念セミナー」でした。
なぜティール組織と成人発達理論なのか
最近ややバズり気味なワード「ティール組織」のベースになっている成人発達理論。
この理論は、これからの生き方の最重要ポイントとしてHライフラボでもたびたびお伝えしている、精神的な「自立」とたいへん関連が深いため、ふたつ前の記事でご紹介した1年前くらい前から注目していました。
さらに、ひとつ前の記事でもご紹介しましたが。
今回のセミナーのきっかけになった「ティール組織」の本の中には、精神的な自立を果たした人が組織の核となることで、逆に他者が抱えるバックグラウンドへの配慮もあたりまえにできる環境ができる、という記述があります。
これは、このブログでもたびたびお伝えしている「精神的に自立した人の多い環境のほうが、配慮を得ながら働き続けやすい」という考え方とまったく発想や原理が同じです。
あらゆる人が個々に必要な配慮を得ながら、それぞれフラットに関係し、働ける環境を増やす、ということがわたしの研究目的ですから、「ティール組織」のような本がバズること自体、大興奮です。
(2018/3/16 追記:この記事を読んでくださった「ティール組織」翻訳者の鈴木立哉さんより、翻訳の経緯についての物語をお寄せいただきました!ありがとうございます。
本当の目利き ー 『ティール組織』(原著)を発見した人 - 金融翻訳者の日記)
一方このセミナーは、近日開講が予定されている成人発達理論関連の連続講座への勧誘が、おそらくは最終的な目的。
いろいろな本を衝動的に買い込んでしまう研究貧乏には無縁の、若干値の張る講座なのですが…
ただ現在も海外留学中で、日本人としてはいまおそらく最も成人発達理論を専門的に研究されている加藤洋平先生のオンライン講演・座談会があるということで、即決で参加ボタンを押してしまいました。
スクリーンの前に約30人(質問の内容から推測すると、コーチング系の人50%、組織開発コンサル系の人40%、その他10%くらい?)が座っていて、その後部のひな段席へ座ると、もうすでに近くの人との「今日の参加目的」のシェアがはじまっていました。
ちなみにわたしの参加目的は、最近の研究課題である「発達段階3→4~へ移行(=このブログでいう、精神的な「自立」)するための、学習・研修プログラム開発」のヒントを得ることです。
成人発達理論を組織開発に応用できるか
しばらくすると、前方に大きく映っている加藤さんに向けて、司会で成人発達理論をふまえたコーチングを実践されている立石さんが話かけます。
実は、かなり早い段階で満席になってしまった今回のセミナーを早く知ることができたきっかけが、この立石さんとのつながりでした。
1年前に成人発達理論を知ったすぐあと、偶然見かけて参加した成人発達理論コーチングのイベントを開催されていた方です。
この立石さんと加藤さんが掛け合う形で、成人発達理論をティール組織開発などに応用することの可能性についてオンライン講演が進みます。
今回の加藤さんの講演・座談会の中で、個人的に特に重要だと思われるポイントは以下の点です。
- ヒトの発達には、ティール組織で言及されている発達段階のほかにも非常にたくさんの発達分野(たとえば美意識など)があり、それぞれ生涯をかけて発達していく。
- 書籍「ティール組織」が援用している理論「スパイラル・ダイナミクス」は、アセスメントが簡易的で、専門家の中では信頼性・妥当性がやや疑わしい、とされている印象。
- 通常、個人が成人発達理論における発達段階を上げるには、少なくとも数年~10数年が必要で、段階を早く上げるための万能薬はない。
- だが、効果的な「小さなアクション」を積み重ねることや、周囲がそれをファシリテーションしていくことは、発達段階を上げるためには重要。
- 組織の意識段階についてはまだ探求の段階。おそらく個人より複雑で成長のスピードは遅いが、システム科学的に考えた場合、個の総和ではなく「創発」が起きる可能性がある。
- ヒトの配置(特にマネージャ層、エグゼクティブ層)のしかたによっては、比較的短期間で組織の発達段階が変わるかもしれない期待もある。
- まずは成人発達理論の知識を習得し、いまの時点の自分の視点がどんな段階なのか、またその先にどんな可能性があるのかを把握する、または把握させることが重要。
以上のとおり、加藤さんの口から「小さなアクションを積み重ねる」ことが個人の発達段階を上げていくためには有効、という言葉が聞けたのは、個人的にとても収穫でした。
またたびたび加藤先生のブログにも紹介されていましたが、実際に成人発達理論の発想からのトレーニングプログラムを提供しているレクティカもふたたび紹介されました。
やはりここのプログラムやアセスメントの手法についてはしっかり勉強しよう、と決意できたのも助かりました。
ティール組織の鍵になる人材の開発に向けて
ただし、「組織」への理論適用には、とても慎重な論調が多かったです。
というのも、組織への理論適用にはまだまだ研究が必要な点が多いのが実情だからとのこと。
それは数日前にも加藤さんがご自身のメールマガジンで、わざわざ「『ティール組織』について:組織開発への発達理論適用の注意点」という記事のリンクとともに指摘していた通りでした。
たしかにまだまだ浅学なわたしの目からも、ヒトの「発達」という脳の内部(実際には外部環境からの刺激も含めて -2018/3/16追記)の複雑系の挙動、そして「組織」という人間や環境を要素にした複雑系の挙動は、はたしてどこまで意図的に制御が可能なのか、まったく想像がつきません。
安易なマニュアル的手法を用いると、かえって悪影響が出ることもあるでしょう。
これからの理論の進展や、実験的試みの報告が待たれるところです。
(2018/3/16 追記)
書籍「ティール組織」内で、具体例として紹介されている企業の現状を取材した記事が出てきました。
ただし、今回ティール組織の書籍にある、実際のティール組織におけるさまざまな実例分析や、成人発達理論そのものの価値が揺るぐわけではありません。
そしていまの時点では、このブログでご紹介している「自立」のプロセスは、「人に優しい」といわれるティール組織を担う人材を育成するためのひとつに十分なり得ると信じています。
今後、まだまだ読み込めていないロバート・キーガン、オットー・ラスキー、カート・フィッシャーら成人発達理論の研究者、そしてレクティカの実績にもしっかり目を通し、他の教育分野・脳科学分野などの知見とあわせて、今後の発想の材料にしたいと思います。
なお今回の記事では成人発達理論の全体感については触れられませんでしたが、ふたつ前の記事や、加藤洋平さんが書かれたとても分かりやすいこちらの書籍を参考にしてください。
組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学
- 作者: 加藤洋平
- 出版社/メーカー: 日本能率協会マネジメントセンター
- 発売日: 2016/03/24
- メディア: 単行本
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またオットー・ラスキーの翻訳書は、加藤洋平さんの WEBサイトでPDF版を購入できます。
(本記事の内容と上記リンクは、加藤洋平先生の承諾をいただき掲載しています)
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